第20章 Insane 研磨
部活を終えたおれは歩の家に向かった
チャイムを鳴らすと、ラフな部屋着に身を包んだ歩が、スコティッシュフォールドを抱きながら玄関から出てきた
「研磨、早かったね」
歩の家に入るのは久しぶりだけど、彼女は特に緊張している様子もなく、子供の頃家に遊びに行った時と同じように迎え入れてくれる
それはそれで微妙に傷つくけど
だって年頃の男子を家に上げるってのにあんまりにも無防備だから
「おばさん、出掛けてるの?」
玄関の靴が歩の分しかないことに気づいて、彼女に確認する
猫を抱いたまま目線だけおれの方に向けて、歩は
「フラダンス習いに行ってんの、だから金曜は夜ご飯もフラダンス仲間と食べて帰ってくるんだ」
と答えた
「ふーん」
歩の部屋に入るのは久々で、思わずキョロキョロと見回してしまう
歩の匂いがする
「待ってて、いまお茶入れてくるから」
そう言って彼女は当然のように、抱えていた猫をおれの膝に乗せる
フワフワの白と茶の毛をしたその猫はラテという名前で、仔猫の時からおれに懐いていた
戻ってきた歩はおれの膝の上で微動だにしないラテを見てクスリと笑う
「ラテは本当に研磨が好きだね、この子あんまり人に懐かないんだけど、昔から研磨にはベッタリだもんね」
膝に乗るラテの喉元をゴロゴロと撫でると、ラテは気持ちよさそうに目を細める
「気持ちよさそー」
そう言って微笑む彼女を見て、少し心が痛んだ
これからおれはキミのその笑顔を奪うことになる
ごめんね
でもこうするしかないから
「歩のことも気持ちよくしてあげよっか?」
ラテの喉元を撫でていた手をふいに彼女へと伸ばす
「え?」
固まる歩
無理もないよね、おれは冗談でそんなこと言ったりしないから