第1章 Allegro 白布
「白布先輩付き合ってください」
今月何度目の告白だろうか
何の目標もなくただ生きてるだけの女に興味は湧かない
時間の無駄
「ごめん、俺忙しいから」
お決まりの断り文句を残してその場を立ち去ろうとした時
歩いてきた女と目が合った
確か同じクラスだったはずだけど
今の聞かれてたかな?いや大丈夫か
前髪も全てキュッとひっつめて、ポニーテールにした彼女は
その上からヘッドフォンをつけていた
彼女は興味がなさそうに目を逸らしスタスタと歩いて行った。
放課後、職員室での用事を済ませて体育館に向かう
3年生の俺たちは引退したが、たまに練習を覗きに行く。
職員室から近道をして中庭に入ると、どこからか音楽が流れる、何の音楽だろう、聞き覚えのあるようなないような…
中庭の真ん中に差しかかると一層音楽は大きくなる
音のするほうに目をやると…
朝に告白現場を目撃されたクラスメイト橘歩がいた。
俺は目を奪われた
足を顔の横までゆっくりと蹴り上げたり、つま先立ちで回転したりする。あれは…バレエ?そうかこの音楽はクラッシックか。
まじまじと彼女を見ていると気づかれてしまった。
「今朝と逆だね」
そう言って彼女は手に持ったタオルで汗を拭き、ニコリと笑った。
あれ?こいつこんな顔だったっけ…鼓動が速くなる
「おう、お前なんでこんなとこで」
努めて平静を装う
「もうすぐ発表会なんだけど、今日練習室使えなくてさ。人気のないとこ探してたらいいとこ見つけて」
白鳥沢は私立で部活の他に特別なスポーツや芸術を習う生徒も多い。鏡張りの練習室も色々な目的で使用されている。
「へー、バレエの発表会?」
「そう、今の教室では最後の発表会だから、主役やるんだけどね」
「主役?すごいじゃん」
「いやいやバレー部も毎年すごいじゃん」
俺がバレー部だって知ってたんだ
「もう俺たちは引退だけどね。発表会いつなの?」
「一ヶ月後、レッスンがない日は学校で練習しとかなくちゃ不安でさ…あ、そう言えば白布って進路どうするの?」
「俺?医学部受けるつもり」
「えーすごいね!ってかどんだけハイスペック装備すれば気が済むの」
そう言って彼女は笑った