第4章 バレンタイン 轟焦凍の場合
「ああああのあのあのこれ!」
学校帰りに呼び止められ、目の前に差し出されたのは鶯の包み紙に白のリボンに赤いシールで止められた箱。
学校というもんはバレンタインとなるとなぜこうも好きだとも言ってないのに勝手に寄こしてくるのか…。
相手も良かれと思って作ったり買ってきたりするんだろうからあまり強くは言えないが、いらないものはいらない。
廃棄処分ゼロを目指している訳では無いが、貰って捨てるよりは本人、もしくは誰かに食べてもらった方が作られた中身も救われるもんだろう。
しかしまさか戦場がこんな風にわざわざ持ってくるとは思わなかった。
女連中の中でも一際仲がいいと思ってはいたが、これはまさか。
轟「わりぃな戦場。甘いもんは食わねぇんだ」
「そ、そうだよね!でもこれ抹茶で作ったロールケーキなの!
暖かいお茶と一緒に食べて貰えると思うんだけど…ダメ、かな?」
轟「ウチ来いよ」
「えぇ!?いや、受け取ってくれればいいんだけどぉ…」
本来の目的とは違う返答だったのでオロオロとする。
ここまで戦場が緊張して動揺してるのは稀だ。
いつもは毅然として授業に励み、時には組手をしたりする勇ましい女性だ。
自分がどの立場でどういう個性を持っているかよく理解し、それに奢ることなく不得手を認め周りの仲間と協力していく。
そんな事を脳裏に思い浮かべながら、目の前で年相応の顔をしてオロオロとしている姿を見ると目元が綻んだ。
轟「それ、食いきれなかったら勿体ないだろ」
「え、それって口に合わなかったらお前食えよってこと!?
それはそれでショックなんですけど!
まぁいいや、直接感想聞かせてもらおうかな。
結構自信あるんだ〜」
えへへ、とはにかみながら隣を歩く戦場。
この日に相手から甘い物を受け取ろうとすることに自分でも少し驚いた。
まとわりついて離れない”好きです”という言葉と、少々のトラウマもないことはないが、戦場は微塵もそんなことを感じさせない。