第16章 因縁の終焉
胡蝶カナエは、鬼殺隊の隊服を身につけ、日輪刀を携え、例の部屋の天井裏に身を潜めていた。
数日前に見てしまった光景が、頭の中で何度も繰り返されては怒りに打ち震えている。
桜華の体に刻まれた傷跡を、『お清め』として童磨が弄んでいたことを
それを「生贄の浄化」と称し、複数人の目の前に晒したうえに、それを狂気に満ちた信者たちが崇めていた光景を…
彼女が御堂に飛び込まず、天井裏から様子を伺っていたのには理由があった。
桜華とカナエ双方の命が大事である故に、助けを待ちたいという桜華の意思で沈黙を貫いていることを知っているからだ。
カナエは、彼女の意志を尊重し、鬼殺隊としての任務よりも、彼女の安全と意思を第一に考えている。
桜華は、壇上に座らされていた。華美な浴衣や装飾を纏い、手足には縄を模した飾りが巻かれている。まるで、神聖な供物のように。しかし、その瞳には、すでに曇ったガラスような光しか宿っていなかった。
「ああ、美しい…。君は、僕が今まで出会った中で、最も美しい供物だよ。何も感じないその瞳も、最高に愛おしい」
童磨が、恍惚とした表情で桜華に語りかけている。
その声は、甘く、しかしカナエの心臓を凍らせるほど冷たい。桜華の体が、わずかに震えているのが見えた。
「そろそろ、君を『更なる浄化』に移そうか」
どういうこと…________
カナエは今まで以上に耳を澄ませ、会話の内容を拾い意味を理解しようと思考を巡らせた。
「その御心は沢山の傷を受けてきたのだろう?
ならば『今まで受けてきた傷を…同じ形で、しかも優しく解きほぐしてやらねば…」
童磨の言葉に、カナエに戦慄が走ると同時に、桜華の表情がこわばったのを見逃さなかった。
「教祖様…次は…どのような…」
「決まっているじゃないか…。男と女子で睦合うことだろう?」
これまで以上にない不快な戦慄が激しい怒りを引き起こす。
出会った頃に湯船で見てしまった傷を彼女は狛治が癒してくれたものと優しい表情で教えてくれたことを思い出す。