第14章 命と古傷
用意されていた屋敷に着いたのは日が暮れてすぐの事。
名前は伏せられていたが藤の宿の一つで街の端にあるような開けたところにあった。
「大変でしたね。お話は承っております。
中へお入りくださいませ」
「世話になる」
珠世さんたちは藤の花がダメだと思っていたが、体を弄ったことで何の問題もないらしく、早速先に来ていた医者と共に子どもに異常がないかを見てもらっている。
鴉や暁の知らせで他の部隊の安全が解ると、それぞれが町民になりすまし鬼狩りの方の任務に戻っていった。
それを見届け、子どもたちがいる部屋へと入る。
まだ小さいのによく頑張ってくれたものだ。
一生懸命に動いているのを見ていると、どうしても涙がじわじわと溜まるのが止められない。
珠世さんが振り向くので、涙を流すのを寸で堪えた。
「お子さんは流石桜華さんと狛治さんの血を継いでいらっしゃいますね。健康そのものですよ」
「そうか…。生まれて早々、大変な思いをさせてしまった」
「それが耐えられるから、あなた方を選んで生まれてきたのだと思いますよ」
桜華の母親のように映るほどに優しく微笑むのが、どこか自分自身を肯定してくれているようで心が温まる気がした。
「では、これで」
「ありがとうございます」
再び3人の時間が訪れる。
目を閉じたまま、何か掴むものを探す手に思わず指を差し出す。
小さい手がしっかりと俺の手を掴んで離さず、落ち着いたようにこちらに顔を向けて静かになった。
「お前たちは、強く優しい母を選んだのだろうな…」
「必ず、母親を助けて、俺も無事で帰ってくる。準備が整えばすぐに行くぞ…」
手のひらにすっぽり収まるくらいの小さな頭。
息子の方はよく見ればうっすらと痣のようなものがあるように思った。
「お前が大人になるころには鬼と戦わなくてもいい時代が来る。だから、お前たち二人には人として生きて欲しい。
生涯を全うして欲しいんだ」
頭を撫でると気持ちよさそうに欠伸をする。
暖かい…。
桜華が命を懸けて生み出した命を目の前に愛おしさが止まらない。
しかし、まだどこか、罪濡れた俺の手で触ることがおこがましいほどに二人が神聖で汚してはいけないもののように思えてしまう。
胸に込み上げてくる感覚は、桜華がいてこそ完成するのかもしれない。