第9章 月詠の子守唄
その夜、秋の虫が静まる頃
闇に埋もれて何処からか唄が聞こえてくる
竹の笛の弟は
今はどこで何してる
凧揚げ、竹馬、花札と
隠れて遊びしあの頃を
愛しの君見て思い出す
天授の才の弟は
別れまで優しい太陽の子
君を腕に抱く一時は
憤りも忘れて凪る我が心
弟への愛を思い出す…
孤月が白々と高い空に輝く
その下で月を写す湖面が風で水面に輪を描いて広がっていく
崩壊したばかりの、ある集落に
血の匂いを強く放つ男
頭を抱えて低く唸り声をあげて悶え苦しむ。
記憶にない。
消えてくれ。
幻聴と小さな手に触れられる感触。
勝ち続けねばならぬ
勝ち続けねばならぬ
そう強く思いながらも中央の赤い双眼からは涙が溢れていた。
幻惑に惑わされ安寧という地獄に誘われ足掻いては
人の血肉を貪り続けることで
記憶の鱗片を消そうとしている。
強さを求め続ける。
男はまだ気づいてもいない。
気付こうともしていない。