第4章 矛盾
日も傾き辺りも暗くなってきた。
猗窩座がいないことで、こんな山奥では鬼だけではないものも出そうな気もして、警戒心から明かりをつけずにいる。
暗闇に慣れてた方が何かの衝撃で明かりが消えるとき順応する時間をなくすことはできるからだ。
手元には日中に見つけておいた丸太を切る道具と地面に打ち付けるための金槌。
今日は満月。
動物が本能的になりやすい。
時より鳥が飛び立ったり、小動物がガサガサと葉を揺らす音がする。
その度に神経を尖らせるも事なきを得る。
だけど気が抜けないこの状況はたぶん夜が明けるまで続くんだろうと思うとすごく長い夜になりそうで心が持たないのではと思ってしまう。
1ヶ月もこの状況の中何事もなかったのは、時が止まった時間を生きていられたのは間違いなく猗窩座が近くに必ずいてくれたからだと痛感した。
落ち着こう
落ち着かないと聞こえるものも感じることもできない。
そういい聞かせて目を閉じ邪念を払った。
どれだけそうしてただろう。
暗くなったときに山から出てきた月は反対側へと傾いた頃
波動が揺れたのを感じて目を開ける。
ゆったりのったりと少しずつ近づく気配は、感じとる動きや波動は彼のものじゃないし人間でもない。
冷や汗が伝うもここは一人しかいない。
「稀血…、女…。稀血…、女…。」
その声はたしかに桜華に聞き取れた。
一気に近づく気配に、桜華は手元の丸太用のノコギリを手に取る。
パーンと引戸を明けられて見えたのは案の定鬼。
その瞳に文字はなく、目が両目と額の三つと、銀色の髪をした男の鬼。
「みぃつけたァ」
桜華の血を欲してか、目は飛び出るほどに見開いて、ヨダレは垂らして物欲しそうに見ていた。
「見たところ、鬼狩りじゃなさそうだなァ。
何でこんなところにいんだァ?」
勿論桜華はまだ声が出せない。
だが、鬼の方は怖じ気づいて声が出せないと思っている。
ましてや自分より圧倒的に強い鬼がこの女の世話をしているなど人間から見ても鬼でも信じられる出来事ではなければ想像だにしないだろう。