第4章 矛盾
何かあったのではと落ち着かない。
鬼である以上、人間を殺し喰らうのが種の道理である。
本来わたしたちの側からすれば忌み嫌うべき存在なのに、無事で帰ってきて欲しいとまで思ってしまう。
でも、彼と過ごしてから一度も人の血肉を喰らった匂いは感じたことがない。
何かで匂いを消してるのかしら。
人間であるわたしのために?
彼は、わたしが言葉を話せるようになれば、自由にしていいと言った。
わたしはまだ、言葉がでていない。
彼が帰ってこないということがあるのだろうか。
でも、彼は上弦の鬼。
きっと生きて帰ってくる。
鬼殺隊の柱が束になってやっと倒せるか倒せないかほどの鬼だ。
『暗くなれば必ず戻ってくる』と言い聞かせた。
あの男に評価されての上弦の位だ。
おそらくあの男に会いに行ったのだろうと思う。
もう、日が昇ってしまった以上、彼は陽光を嫌うがゆえに帰って来るはずもない。
帰ってくるのは、空の茜が消えてからだろう。
そこらに全く彼の気配を感じないから、今どこにいるかさえ分からない。
すなわち、いつ帰ってくるか、そもそもここに帰ってくるかさえも怪しい。
どのみち、今日も夜が来る。
お父様からわたしは珍しい種の稀血だと聞いている。
すなわち鬼が来れば襲われる。
猗窩座の負担になってばかりはいられない。
だからと言って、死ぬことは決して許してはくれない。
連れてこられる時あんまり見ていなかったけど
ここは猗窩座が日中でも身を隠せるほどの鬱蒼と木が生い茂る山奥。
行く場所もいつも告げずに忽然と姿を消すからどこまで行ったのかすら解らない。
その間に鬼が来たら剣術もそれ以外の武道も全くやったことがないわたしは抗う術がない。
『勝手に死ぬなよ』といわれてるのはおそらく自害しようとしたあのときのことを指すんだろう。
でも、自分よりも弱い鬼にわたしが食い殺されたというのは、彼自身のプライドが許せないだろうと
まだ万全じゃない心を奮い立たせて立ち上がり武器になりそうなものを探すことから始めた。