第4章 矛盾
その日は初めて猗窩座は朝日が昇るまで帰ってこなかった。
いつもなら、そう遠くないであろうと頃までしか行かず、空が白んでくる前には帰ってきていた。
まだ、十分に動けないわたしのためだけに、鬼にもかかわらず食料品など必要なものを買い出しに行っては、身の回りのことはしてくれてる。
空いた時間でも、わたしが気配を感じれるところで鍛練に勤しんでいた。
始終無口だけど、
波動も何も感じなかったけど
そうしてくれることが嬉しかった。
無意識で手慣れた様子でそれをこなしてしまう様は
わたしではない誰かに施しているようなそんな気持ちになる。
『鬼は哀れで悲しい生き物』
そう父は言っていた。
今では父が言っていたことの意味が解る気がする。
現に何度か
猗窩座が誰もいないところに攻撃したり
わたしの様子を見て悲しそうな表情をしてたり
急に頭を痛がりだして「消えろ!」「黙れ!」などと叫んだりする。
その様子を目の当たりにして
「苦しんでいるのはわたしだけではない」と思えた。
申し訳ないけれど、苦しんでいるその後ろ姿と、懸命に身の回りのことをしてくださることが凍った心を溶かしたのかもしれない。
でもわたしが苦しんでいたのは彼からすればほんのわずかな時間。
きっとわたしよりもはるかに長い時間
鬼になってしまうほどの深い悲しみで
自己防衛のため
自分の心の崩壊を免れるため
過去に完全に蓋をして
全てを捨てて
強さだけに異常な執着を持っている
そして、時々彼を襲う残像が今も彼を苦しめ続ける。
勝手な解釈だけどあながち間違ってはいないだろう。
ここまで優しいことが出きるその手でたくさんの命を奪ってきた。
彼の宿命を悲しく思う。