第3章 無限城
黒死牟のいうことは恐らく桜華とは別の人間だろう。
そう猗窩座は捉えていた。
味とにおいが今までの稀血と違うものというだけで危険なにおいも感じない。
実際何の変化も感じていないからだ。
ただ、桜華のあたりにいると無惨様との交信が途絶える事だけしか、今のところ異常などない。
なにより、彼女の近くは日増しに心が凪になる気がしていた。
「あまり深追いするな........。もし、無惨様が女を危険だと判断すれば、お前の手で殺さねばならなくなる........。
お前の望む”強さ”は手に入らない。」
「深追いだと?人間如きにするわけもない。」
そもそもが人間という弱者を毛嫌いするがゆえに即答だった。
「忠告、したぞ......。」
「あぁ。」
そういって黒死牟は姿を消した。
『もし無惨様が女を危険だと判断すれば、お前の手で殺さねばならなくなる。』
黒死牟がいっていたことがなぜか脳の中を渦巻く。
自分の状態に違和感を感じながらもそれが気のせいだと己に言い聞かせた。
「琵琶女。もといた場所に俺を戻せ。」
その声が鳴女に届くと同時に琵琶の音が鳴り響き、
俺も元居た場所に戻っていった。
なんとなく彼女の近くへ直接行くのをやめた。
日の出前だ。こんな日に限って日の光を遮る雲がない。
今日は桜華の元には帰れそうにない。
そう思った俺は近くの洞窟を探し当て、そこでまた強さを求め鍛練を始める。
なぜか、桜華のことが気にかかる。
他の鬼に食われてはいないだろうか
食事はとれているだろうか
また、見つけてきた日のように自ら命を絶ってはいないだろうか
また、脳裏に映像が浮かぶ。
布団から起き上がり、汗を流しながら苦しそうに咳をし
俺を見る女の顔。
俺は何を見ているのだ。
その女は桜華とは全く違う顔立ちで全くの別人なのに
息をするのが苦しくなるくらい胸に突き刺さる。
俺は
おまえを知らない
何を見ている
お願いだ
消えろ
消えてくれ………!
その残像を無理矢理消し飛ばすように何もない空を拳で殴り付けた。