第8章 魂の雪蛍
俺は少しずつだが寝るようになった。
そしてここ一週間同じ夢を見る。
杏寿郎が言っていた、桜華の父親なのだろうか。
額には炎のような痣があり同じ顔だが、柔らかいふわふわした長髪で茶褐色の羽織を来た侍の姿の時と、散切り頭のスーツ姿の時と……。
同一人物と思えるのは背丈と痣のかたちや大きさが同じで、身に付けているものと髪型以外が同じように感じる。
その表情は穏やかで常に植物のようにそこにただ存在するだけなのに、すごく強い男だと俺の目から見てわかるんだ。
「娘の伴侶になる者か?」
今回は初めて話しかけられた。
穏やかな表情に笑みを浮かべて、深い慈愛を感じた。
「私は……、あの子に、辛い思いを沢山させた……。」
「君は……鬼なのだろう?」
川のせせらぎのような心に染み渡る声はどこか物悲しそうだ。
「今世ではないが…、私は一度鬼を助けた。」
どう言うことだ?俺を助けるとでも言いたいのか
「今世はあの子を守ることができなかった………。
君が、あの子の命を…志しを、その命がつきるまで守る気はあるか?」
「当たり前だ。俺はそのために無惨を裏切ってここまで来た。
そして、桜華はお前の事、一度も悪く言ったことはない。今でも敬っている。」
そう言いきると、ちゃんと伝わったのか、その男は涙を浮かべた笑顔でそうか…と言った。
その強さを持ちながら、刀を振らなかった。
その優しさがありながら家族を守れなかった
だが、この男にはそれ以上に桜華への愛を強く感じて、生前からずっとこれでよかったのかと強く悩みを抱いてると思った。
でなければ、俺の前にこうして現れることもなかったように思う。
「ありがとう。」
男は海に反射するような眩しい太陽の光のように優しく笑った。
桜華と笑い方がやはり似ている。
次の瞬間、男は突然和服の侍の姿になって、刀を手にかけた。
抜いた刀は赫刀。
巧一さんが言ってた朱く燃える刀。元の刀は美しい黒刀。
「いざ!」
男は燃えるような刀を俺に振りかぶり斬りつける。
不思議と避ける気もしなかった。
「娘を……頼む……。」
意識が現実へと浮上する瞬間、男はそう言った。