第7章 残されていた愛 繋がる愛
狛治のいる屋敷に戻ると、閉めきった障子の窓に頬杖をついて見えない門側を眺めている後ろ姿。
「お帰りになりました。」
「そうか……。」
その後ろ姿だけでも、嬉しそうな暖かな感じを感じる。
「杏寿郎が、わたしたちのことを朱音様に、"二人は俺の友人、もしくは先輩"だと言ってました。」
「杏寿郎が……、そんなことを………。」
顔が見れる位置まで来て腰を下ろしてみると、やはり嬉しそうな穏やかな顔で目を少し伏せていた。
「嬉しいのですか?」
当たり前だと帰ってきそうなことをあえて聞いてみた。
障子のすぐ外にある庭の竹が光に照らされて狛治の顔に葉の影が優しく揺れる。
「あぁ。俺にとっても、もったいないくらいの友人だ。」
静かに穏やかな低い声が、心のそこにじんわりと広がった。
「わたしも嬉しい。」
「また、失いたくないものが増えた。だが、心はこの上なく暖かい。
やはり、人間は儚いものだが尊い。」
その言葉がすごく優しい響きで、その表情も合わさって心の風札を揺らす。
彼がその事を言うのは、他の誰よりも重く感じられる。
それと同時に、修羅に生きた無謀と彼が言う殺戮をしてきた間の己の愚かに
語りかけているような
そんな気さえした。
無風だった外に
ちりん…と風鈴の音。
じりじりと照りつける夏の暑さの中
誰よりも優しかった父親の言葉をまた思い出す。
父がわたしたちを見守ってくれていると、なぜかその時思えたから。