第2章 無意識の中で
連れてこられて3週間ほど。
少しずつ思考したり考えられるようになってきた。
連れてこられてからというもの、この鬼は、わたしが完全に寝入っているときに行動しているのか、ずっとわたしの声が届くほどの距離しか離れない。
なぜこんなにもこの鬼は人間に対して世話を焼くんだろうといつも思う。
最初、縄張りに連れていってから捕食するのかと思ったら着物を剥ぎ取って体を洗いだし、
襲うのかと思えば、自分がしていることに今さら気づいて赤面して目をそらしたり
決して自分では食べない人間の食すものを器用に作ってわたしに差し出してくる。
人の頃の記憶で動いてしまっているのだろうか。
でも、それがわたしを捕食する意志はないということと、鬼に似合わず結構純情なのが可笑しかったことで少しだけ緊張が解けた気がする。
5年前
わたしの家族親戚、そして護衛の鬼殺隊も全員6つ目の上弦の壱に殺された。
そして唯一わたしだけが生き残ってしまった。
あの鬼がわたしに気づかないわけでもなかったはずなのに。
わたしを助けた猗窩座も同じく上弦の鬼。
上弦の壱ほどではないが鬼の最上位核で間違いない。
なぜ彼はわたしを助けたのだろう。
父の権威も地位も財産も全てがない今は、わたし一人の命など"あの男"は気にならないかもしれない。
だけど、全ては"あの男"の気分、さじ加減ひとつの世界。
猗窩座も下手をすれば殺される。
いや、あの男の指示で猗窩座にわたしを殺させるだろう。
ここまでしてくれた。
だから、猗窩座がわたしを手放すか、わたしがここを去るか、殺すまで絶対口が裂けてもわたしの正体を口にしてはならない。
鬼は全ての感覚が鋭く全てがあの男に見られるよう繋がっているらしい。
上弦の壱が気づかない事を…、
"あの男"がわたしの正体に気づかないようにしなくてはならない。
どう転んだとしても
鬼からの言伝かなにかで、この状況でわたしが生きてると知れたら、大きくなられた"あのお方"のお立場を傷つけることになる。
それだけはどうしても避けなければならない。