第1章 unlucky men
「私に用って、なんですか」
ニノは微笑で俺に尋ねた。きちんと口角を上げた、何の悪意もこもっていなさそうな、純粋な笑み。
けれど、目は笑っていない。
さすがのアイドル、巧みな営業スマイルだ。
普通の人なら、これがテレビ越しなら、誰も目が笑っていないと気付かないくらいにその笑みは完璧だった。
でも俺になら分かる。
ただ、どうやって切り出していいものか、躊躇われた。
それとなく不調を尋ねるような、相手に気を使わせないような、そんな便利な言い回しは無いものか。
こんな時にちゃんとメンバーに気を使えないなんて、『大卒アイドル』なんて、たまったもんじゃない。
何の役にも立たないのだから。
必死で考えるも、時間がかかっては怪しまれて状況は悪化するばかりだろう。
結局選んだのは月並みな言葉でしかなかった。
「……ニノってさ、最近疲れてない?」
「私がですか?」
果たしてニノは、何のことやらと首をかしげた。
吐いていたことを目撃されたことに気付いていないと知り、ひとまずは一安心。
きっと、誰にも知られたくないはずだ。
俺だってそうだ。