第1章 unlucky men
自分の頬が上気しているのが分かる。焦点が揺れ、瞬きすらろくにできない。ずっとニノを見ていたら何か怪しまれるに決まっている。
けれど、ニノから目線を外すことはできなかった。
憂うような潤んだ流し目。
ミステリアスに影を落とす、細い睫毛。
ふんわりと薄い唇。
色づいた、柔らかそうな頬。
さらさらと、触れば融けてしまいそうな長い前髪が、傾いたすべすべの額の上に垂れ、目をうっすらと隠している。
真っ白な、華奢な首筋。ぐるりと首周りの開いた、大きなシャツ。多分、中に肌着なんかは着ていない。
どくり、と心臓が鳴った。
視線が張り付いたように離れない。釘に撃たれたみたいに。
頭の中に湧いた妄想を必死で振り払う。何考えてんだ、俺、おかしい、おかしい、って——……。
「何か、ついていますか?」
何の変哲もない、普通の、声だった。
俺のことを微塵も疑っていないような目。純粋な、穢れの無い、……。
金縛りが、解けた。
慌てて視線を逸らす。さっきまで自分の考えていたことが不埒で、あまりに恥ずかしくて、早く振り払いたくて、誰にも気づかれないように、そっと深呼吸をした。
俺の様子がおかしいことに気付いたのだろう。
ニノは、「なんだこの人」とでも言うように俺を一瞥して、熱が抜けるがごとく俺から興味を外して、再び相葉君と雑談を交わし始めた。