第1章 unlucky men
「え?」
ぐっと強引に、俺の肩を引き寄せた。
何かの香水の香りがふわりと漂って、一瞬、酔ってしまいそうになる。
耳元で感じる吐息の気配に、こんな状況ではあるけれど、どきりとした。
……男だけれど。
潜められた声が、俺の頭を掻きまわしていく。
「翔くん、恋煩いなんかだったら、もっと楽しそうな顔するから。でもそんな気配はないで、ずっと鬱々としているだけ。
でもそれは今日に限ったこと……いや、昨日もそういえばちょっとおかしかったかな。だから、体調の変化とかではないと思う。
つまり、好きな人以外の人とか物とかに、何か、悩まされてる気がする。どう?」
どう、と言われても。
きっと自分の推測が合っているかを確かめる相槌なのだろう。けれど、あまりに的確過ぎて、内心舌を巻くのと同時に、押し黙ってしまった。
その沈黙をYESと捉えたらしき彼は、ほとんど息だけの声で言った。
「……俺に出来ることだったら、なんでもするから」
その言葉には、暗に、無茶するなよ、と言っているようにも聞こえた。
俺が呆然としていると、相葉君の呼ぶ声に、松潤は顔色を一変させ、また陽気に話の輪に加わっていった。弁当を持って。
揺らいだ視線の先に、おにぎりをパクつきながら、心配そうにこちらを見る大野さんの姿があった。