第1章 unlucky men
そうして俺は、何度目か分からないため息をついた。背もたれに寄りかかると、ギシリ、と僅かに木のきしむ音がした。
熱を持った額に手を当てる。
末端まで熱の通っていない俺の身体は、いとも容易く手の甲と額の熱を均等にする。といっても、風邪を引いているわけではないのだ。
頭がオーバーヒートしている、とでも言おうか。
もう気が爆発しそうだった。それで、自分は相手に使うまでの考える頭が無いのだと気付いて、またため息をついた。
わざと逸らした視界のほんの端に、目下の悩みの彼がロッカーに凭れて、楽しそうに相葉君と話している姿が映る。
見たところ、何の異常も見つけられない。そもそも滲んだ姿じゃろくに判別も出来ない。
だったら直視すればいいのではないか。
けれど、どうしても、頭の片隅がそれを拒否し続けていた。
怖いのだ。
また、昨日みたいに、壁を張られることが。
いや、既にその壁はあるのかもしれない。
透明な薄い壁は、あと一歩、ほんの一歩のところで俺を妨害する。壁に足先が突っかかる度、嫌な汗が流れて、じりじりと後ずさりをしてしまう。
壁を力づくで壊すまでの気力も腕力もない。だから手を握れない。駆け寄って抱きしめることも出来ない。遠くを眺めるその目を視界の端から見つめることしか出来ない。
無力、だ。