第1章 unlucky men
心配ありがとうございました、と頭を下げて背を向けるニノに、俺はなすすべもなく、呟く。
せめて届いて欲しい、と。
「……何かあったら、俺に、相談してよ」
多分ニノには聞こえていた。
でも、それだけでは、駄目だったのだ。
届くというのは、物理的に耳に響くことじゃない。
自分の心に、しっかりと響かなければ、言葉は「届く」とは言えないんだ。
——なあ、ニノ、なんでそんなに背負いこむんだよ。
彼は結局、振り返りもせずに廊下の向こうへ消えていった。
そのまま楽屋に戻る気にもなれない。
心の中に、ぽっかりと、空虚な穴が開いたまま廊下に突っ立っていた。
磨きこまれた床に、自分の顔が映っている。
妙に冷淡に見えた。
自分で傷口を広げただけの話だった。
もう、明日の誕生日なんて、気にしてさえいなかった。