第1章 unlucky men
右手が宙を舞う。
ニノによって俺の手が振り払われたと気付くのは、その数秒後だった。
突然の大声が鼓膜をビリビリと震わせた。彼は、はぁ、はぁと荒い息をして、俺をキッと睨む。
あまりに強い視線に怯む。
ニノは、こんなにも、険しい目つきが出来たのだろうか。
今まで俺たちに見せてきた表情は、全て嘘だったのかと疑いたくなるくらいに、辛い目だった。
演技でも何でもない、本当のニノの感情の高まりを、空気の振動と凍てつくような、燃えるような視線が肌に直に感じさせた。
未だに心臓がバクバクといっている。
突然の衝撃と、ニノの触れてはならないところに触れてしまったことに気付いたから。
自分の未熟さにほとほと呆れるしかない。
なんで、なんでもっといい方法を考えられなかったんだ……。
ニノははっと我に返ったかのように俺から目を逸らすと、俯いた。
「……すみません、翔さんが悪いわけでは、無いのに」
元々キレやすい性格なんですよ、最近近所が工事でうるさくてストレスが溜まっていたんです、と釈明する。
けれどそこにもぎこちなさがあった。
嘘だと気付いた。
「それじゃあ、私はちょっと飲み物買いに行ってくるんで。あなたは、楽屋に戻りますか?」