第1章 例のあの部屋シリーズ① 不死川兄弟の場合
窓も扉もない真っ白な壁が四方を囲み、ただ床だけは畳になっていて、そこには不釣り合いなほど大きな布団が敷かれていた。
変えたばかりの新鮮ない草の匂いが立ち、とても幻覚だとは思えない。
ほんの今しがたまで、鬼を狩り、あと一歩というところまで追い詰めていたはずなのに。
「兄貴!!」
一緒にこの部屋に閉じ込められた顔に傷のある目付きの悪い男が狼狽えて叫ぶと、更に傷だらけで更に目付きの悪い男がチッと舌打ちするのが聞こえてきた。
「風柱様!!」
そう、この2人は兄弟。兄の方は鬼殺隊なら誰もが知る最高位の柱のひとり、風柱・不死川実弥だ。
には目にも見えない速さで壁に切りかかるが、壁には傷ひとつついた様子はなかった。
すると真っ白な壁に、真っ黒な墨で書いた様な文字が浮かび上がってきた。
〖 交合しなければ出られない部屋 〗
…………
「兄貴、交合って何だ?」
「!?」
「そりゃテメェ、まぐわい、の事だろうがよぉ」
玄弥の無邪気な質問に、実弥も素直に答える。
「!!」
もまた兄弟の会話の内容にいちいち反応してしまうのだった。
「兄貴、まぐわいって…はっ……まさか」
やっと理解したのか、玄弥がみるみるうちに顔を真っ赤に染める。
「あぁ?テメェまさかヤった事ねぇのか?」
実弥が詰め寄っても玄弥は動かない。
「ほんと図体ばかりデカくなりやがって」
玄弥のおでこをデコピンで弾くと、「あ痛っ!」と頭を抑えてしゃがみ込んだ。
ふと、に、実弥が視線を向ける。
(何だろう、絶対に、破滅的に嫌な予感がする)
反射的に一歩下がる。
すると実弥は一歩近づいてきた。
「んん?見た事ある面だなァ?」
また1歩下がりながらは答えた。
「ひ、丙のです」
更に1歩、実弥は近づいてくる。
「そうだ、確か冨岡んとこの…」
だから、また1歩下がる。すると、敷かれていた布団を踏んでしまったが、今は土足をどうこう言ってる場合ではなかった。