第4章 stray cat
長引いた梅雨もようやく明けそうな
7月のある日
この日は
リンの母親の命日だった
命日には毎年
父娘2人揃って墓参りに行っていたリンは
この日も朝早くから支度をして
マンションの前で父親の車の到着を待っていた
けれど
中々車は現れない
セツナが亮二に連絡すると
後妻である魅音が体調を崩し
心細いからボスに側に居て欲しいと言っているらしく
なんとか宥めてから向かうのでマンションで待っていてくれとの伝言をことづかったという
リンに伝え
連絡が来るまで部屋で待っていようと言うと
『ここにいる』と言って植え込みの端に小さく腰を下ろした
それから1時間が経ち
2時間が経った時
セツナの携帯が鳴った
亮二からだった
「……魅音が今日はずっと側にいてくれと言ってきかないんだ……いつまでたっても家を出られそうにない…………墓参りにはセツナが付き添ってやってくれと……ボスからの頼みだ…」
「……っそんな……リンはもう4時間以上もボスが来るのを待っているんですよ…?」
亮二はボスの代わりに謝り
セツナにくれぐれもリンを頼むと言った
父親が来られなくなった事をリンに告げると
彼女は大して興味も無さそうに『そう…』とだけ答えた
墓地へ向かう間も
帰りの車の中でも
リンの態度は穏やかだった
むしろ
普段よりも上機嫌なくらいで
マンションへ帰ってからは
セツナの作った夕食を同じテーブルについて食べる程だった
安心したセツナは
片付けを終えると
ベランダへ出てタバコを一本吸った
ほんの5分にも満たない
短い時間だった
けれど
セツナが室内へ戻った時
リンの姿は消えていた
いざという時の為にリンの女友達の少女の連絡先を調べてあったセツナは早速彼女に連絡をしたが
何も知らないようだった
少女は心配そうな声で
「自分も心当たりを探してみる」と言って電話を切った