第5章 笑顔の裏側
ナナの言葉を聞いた雅は
声を絞り出すようにして反論した
「……そ…んな…」
『……雅………私ね……響也に拾ってもらったんだ…』
「………ぇ…」
『……雪の中……段ボール箱に入れられて…ゴミみたいに捨てられた。………行く所なくて………何にもなくて………どうしたらいいのかも分からなくて………もう…全部……終わりにしようって思ってた…』
「……」
『……捨てたのは…前の飼い主。………私の長い髪だけが好きだった…。…………逃げるあてのない私を……毎日殴ったり…タバコを押し付けたり……もっと嫌な事も…いっぱいされた。……………そいつ…私を捨てる時………小さなナイフを渡してきた…………" こんな人生終わらせて…楽になりたかったら使え "…って………" これがせめてもの優しさだ "…って言ってた。………タクシーから降りた響也と目が合った時………私は…自分の手首にナイフを…』
雅の声が
ナナの言葉を遮った
「ナナ!……もういい…」
雅はナナに近づくと
震える身体を抱きしめた
「…もういいから…」
動揺している雅の腕の中で
ナナは静かに続けた
『……響也は……何も無かった私に……住む所を…居場所を与えてくれた。……生活の世話もしてくれた。……これまで…私が知らなかった優しさも……温もりも………全部をくれたの…』
ナナは雅からそっと体を離した
『……ペットは……飼い主が気が向いた時だけ構ってもらえるの……与えられる以上の物を望む事は許されない………多くを求めれば…相手の負担になるだけ…』
「……」
『……負担をかけるペットは………鬱陶しがられ……飽きられて……捨てられてしまう…』
感情のないその声は
自分に呪文をかけているようだった