第24章 暴走
霞む視界の端で銀色が靡く。空気が、変わった。
年中常夏の国であるはずなのに、肌に感じていた暑さが急激に遠のいていく。血を流しすぎたせいもあるだろうが、明らかにそれだけじゃない。
これまでとは違う雰囲気を纏う女。俺に背を向けて立つその姿からは、何の感情も読み取れない。
逃げろ、と。
そう叫びたかったが、声を出すことすら躊躇される。これは、幾度も修羅場を乗り越えてきたからこそ分かる直感だった。下手に動くことは許されない。それが例え、味方であっても。
ドフラミンゴにもこの空気は伝わったらしい。先程までの薄気味悪い笑みは消え、僅かに動揺が感じ取れた。
目の端の銀色がふらりと揺れた。
「…全部、こわれちゃえばいいんだ」
あどけなさすら感じる呟きが聞こえた瞬間。
突如として、ドレスローザ王宮に影が落ちた。
質量を持った黒い影が、瞬く間にドレスローザ上空を埋め尽くしていく。ついさっきまで辺りを照らしていた陽射しは消え、重苦しい雲が空を覆う。
やがて、闇を切り裂く稲光とともに、地響きのような雷鳴が轟いた。
「…どこから呼び寄せやがった...!!」
ドフラミンゴが空を見上げて低く唸る。返答はなく、代わりにすうっと、白く細い腕が天に向かって伸ばされた。それはまるで、何かの合図かのように。
一瞬の静寂の後、無数の光の筋が王宮に降り注いだ。
無差別に落とされるそれは、凄まじい勢いで大地を割り、崩れ落ちた王宮は無慈悲に瓦礫の山と化していく。逃げ遅れた人間の悲鳴が雷鳴の合間に響き、かき消えた。
アウラの耳にその悲鳴は届いていないのか。一切の躊躇もなく徹底的に破壊し尽くす姿からは、赤の他人のガキを助けろと縋ってきたあの時の面影は微塵も感じられなかった。
アウラの皮を被った知らない奴がドフラミンゴと対峙している──そう思わせるほどの、得体の知れない不気味さを孕み、その女は攻撃を繰り返した。
体の内側から悪寒がする。名前を呼ぼうとしたが、口から漏れたのは音にもならない掠れた息だけだった。
何が起きている。───アイツは一体誰だ。