第22章 ゲーム(Ⅰ)
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「…ぅー……」
一瞬で周りの景色が変わるこの感じはまだあまり慣れない。視覚の情報に一瞬脳が追いつかず、くらりと頭が回る。よろけず立っていられたのは、横にいる人が支えてくれているから。
一度ぎゅっと目をつぶる。そして次に目を開けた時、はっきりとした視界に大きな建物が入った。
目の前にあるのは、曲線を描き聳え立つ外壁。
ポップな色合いのドレスローザの街並みとは対照的に、深い土色をしている。雨風に打たれたのか、ところどころが風化して崩れ落ちていた。
その建物の周りを背の高い塀がぐるりと囲う。頑丈そうな石の造りが、何だか檻のようにも見えた。
さらによく見れば、外壁に文字が彫り込まれていることに気づく。目を細めてなんとか読み取ってみる。
「コリーダ…コロ、シアム?」
コロシアムって。
「…闘技場?」
びっくりして、思わず半歩その建物から後退る。
闘技場って、あたしも物語の中では何度か聞いたことがある。
それってつまり、剣闘士達の戦いの場ってこと。
相手が死ぬまで殺し合う場所。
そしてそれを熱狂的に鑑賞している人がいる場所…。
真偽は確かでないけど、あたしが読んだ物語では全部そんなふうに紹介されていた。
外壁のシミが一瞬血のように見えて、ぶるりと身震いをする。ローはなんだってこんなところに。
「ロー、ルフィたちは…」
不安に思って、隣にいる彼を見上げて尋ねてみると、
「おーい!トラ男ー!ゆきんこー!」
知った声に呼ばれた。
こんなふざけた呼び方をするのは彼しかいない。
あたしはその呼び方を許した覚えはないんだけど。
振り返った先には、やはり、麦わら帽子の青年がぶんぶんとその手を振っていた。