第21章 約束
「…コラさんのこと?」
口をついて出たその言葉に、ローは軽く頷き肯定を示す。
「どこまで聞いた?」
「コラさんが、あたしの兄ってこと、本名はロシナンテってこと…。それから、あたしをあの島に連れて行ったのも、多分それをローに教えたのも、その人だってこと…」
「全部あってる」
「……海軍のスパイだったんでしょう?」
躊躇いながら口にすると、ローは自嘲気味に笑う。
「…ああ。不器用なくせにそういうのは上手くやってたみたいでな。ファミリーの誰にもバレてなかった。死にかけのガキを助けようなんざ思わなきゃ、あの人はあのまま上手くやってたんだろう」
そこで言葉を切る。
束の間の沈黙が流れた。
言いづらいことを口にするときのように、ローは僅かに躊躇う様子を見せる。だけど、あたしが違和感を感じて何か言う前に、再び口を開いた。
「──コラさんは、おれを助けて死んだんだ」
はっきりと、端的に。
告げられたその言葉には、底知れない暗さがあった。
「ロー……?言い方が変だよ。あの人はドフラミンゴが…」
「ああ、実際に手を下したのはあの男だ。だが」
ローが何を言おうとしているのか分からない。
不安になって彼を見つめると、ローは少し息を吐いた。
「生きてりゃお前に会いに行くはずだった。いや…。そもそも、おれに構わなきゃお前が一人であの島に取り残されることも無かったのかもしれねェ」
「ねぇ待って。なにを…」
「…アウラ、お前はあの人と生きられるはずだった。──そういう未来も確かに在ったんだ。13年前、おれがあの人の優しさに甘えて、その機会を永遠に奪っちまうまでは」
ねぇ、何を言おうとしてるの。
その言い方って。
ローはただ静かにあたしを見つめる。
「……お前は、おれを責めていい。恨まれても仕方ねェことをしたと思っている」
「ロー!!」
淡々と話すローを思わず止めてしまう。
あたしのほんのすぐ前にいるはずなのに、なぜか遠くに行ってしまうような気がして。言いながら、彼が一番傷付いているような気がして。
勢い余ってローの指を強く握ってしまったけど、そんなの気にならないくらい、あたしは必死だった。
あたしが、ローを恨む?
どうして、そんなこと言うの。
どうして、そう思うの。