第21章 約束
…そんなの、受けるはずがないでしょう。
他でもないあの人を殺した奴の一味になるなんて。
「そうだな…。条件を飲むなら、ついでにお前が知りたいことは全部教えてやる。そのために来たんだろう」
どんなことをいっても無駄だ。
ローが条件を飲むはずがない。
絶対、断るに決まってる。
そう、確信していた、のに。
「いいだろう。のった」
聞こえてきたのは、予想とは違った返答だった。思わずぎょっと目を見開く。
「………っ!?な……!?ロー???」
「いいから黙ってろ」
ローはドフラミンゴの取引に応じたのだ。
いつも通り、飄々とした口調で。
まるで何でもないことのように。
「フフフフフ。よく分かってるじゃねェか。話が早くて助かる」
ドフラミンゴはローが条件を飲むことを知っていたふうだ。ポケットから何かを取り出し、ローに放って寄越す。
「望みが決まったらそれをつけろ」
床に落ちたそれは、白い石でできた手錠だった。ここからじゃローの反応は見えないけど、多分彼もそれを見たと思う。
それが何かって?あたしにも分かる。
…きっと、海楼石だ。
本当に…?
ローは本当にドフラミンゴと取引するつもり?
ドフラミンゴが約束を守るとは限らない。それどころか、能力を封じた瞬間、ローを殺そうと攻撃を仕掛けるかもしれない。
そんなこと、ローは十分分かってるはずなのに。
「フッ…くだらん男になったなお前も。そいつを守ったところでロシナンテは帰ってこねェのは分かってるだろう」
ドフラミンゴが低く呟くのが聞こえた。あたしにも聞こえたくらいなんだから、ローも聞こえたに決まっていて。
なのに、彼はいつものように挑発的に言い返すことはしない。
彼が黙って海楼石を拾い上げるのを、あたしは呆然と見つめていた。
石に触れている限り、能力者は悪魔の実の能力を使えない。その上、身体中の力が抜けてしまったような虚脱感を覚える。
それなのに。
どうして。
本当に、彼の言葉を信じたんだろうか。
そうまでして、ローは彼に何を願うつもり?
そう思った時、ふとドフラミンゴの反応が気になった。
視線を移すと、手錠を持ったローを見て、ゆっくりと凶悪な笑みを浮かべる彼。
ひどく不快な胸騒ぎがした。