第20章 遺書
なのに。
体が鉛になったみたいに重く、地面から立ち上がることができない。
風になろうとしても、いつものように空気に溶けることができなくて。あんなに自由に駆けていたはずなのに、そのやり方すら忘れてしまったみたい。
──早く。早く。
体はちっとも言うことを聞いてくれないのに、気持ちばかりが急く。
だって、ほら。
急がないと。
あとわずかで、彼の指があたしに触れる。
──捕まってしまう。
「──いや……っ!!」
恐怖に耐えられなくて、ぎゅっと目を瞑った。
その時。
空気が、揺れた。
あたしのすぐそばを、一陣の風が吹き抜ける。
──────ドサ。
何か重たいものが地面に落ちた音がした。
おそるおそる目を開けると。
──あたしの前に落ちていたのは、腕だった。
ピンク色のコートを着た、人の腕。
「……ッ…ひっ!?」
「フッフッフッ…やはり来たか」
低い呟きが聞こえたと同時に、あたしの目の前からドフラミンゴが消える。
「……勝手に触るんじゃねェ」
代わりに現れたのは、黒い背中。
大きな刀を抜いて、あたしの前に立つ。
彼が対峙しているのは、ついさっきまであたしに触れんばかりの位置にいたはずの男。男のそばには片腕が落ちていた。
それを見て、ようやく気づく。
──そうか、ドフラミンゴが消えたんじゃない。
…あたしが、移動したんだ。
「フフフフフ、家族水入らずの会話を邪魔することはないだろう。相変わらず空気の読めねェ奴だな」
「知るか。コイツをてめェの家族ごっこに付き合わせる気はねェよ」
そう言って不敵に笑うのは。
「無事か。アウラ」
──あたしが一番会いたかった人だった。
第21章 『遺書』 <END>