第1章 夢
いつもだったらここから悪口の応酬が始まるところなんだけれど。
「悪かったよ。これ、やるから機嫌なおせ」
ライがあんまりすぐに謝るもんだからあたしは臨戦態勢に入っていた分、拍子抜けする。
…いや、その前に。
なんでりんご??
ライが持っていたのは、まるまるとして赤く熟れた、今まさに食べごろって感じのりんご。
いらない!って突っぱねようと思ったけど、てらてらと光る赤がたまらなく美味しそうに見える。
そういえば朝ご飯食べ損ねたんだよね、あたし。
腹が減ってりゃ戦もできぬとはこのことか。敵から食べ物をもらうってのはどうかと思うけど。
「…もらう」
食べ物に負けたようでちょっともやもやするけど仕方ない。片手で差し出されたりんごはありがたく頂くことにする。よし、今日のところはこれで許してやろう。
「ありがと、じゃ!」
走り出そうとしたあたしは、
「ちょっ、おいまだ行くな。りんごが本題じゃなくてだな、あのー…その」
なにやら煮え切らない様子のライに、こてんと顔を傾ける。
りんごは有難いけどさすがにそろそろ行かないとまずいんだけど。何をごちゃごちゃ言ってるんだ。