第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
何度も見た闇の中。
女性の声が、聞こえてくる。
「……──もう一度お会いできるなんて……っ」
「どうかっ…どうかこのお方を」
彼女の涙混じりの声が途切れ途切れに続く。かなり聞こえづらかったけれど、その声は歓喜に震えているようにも思えた。
「わたくしのことはお気になさらず…ええ、ここのことはよく知っています。……うまくやりますわ」
彼女が話しかけているのはきっとあの人だ。
夢の中、いつも出てくる人。
大きくて温かい手をしていて、あたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でてくれた。
「辛ければ今までのことは全部忘れていい。お前の人生はこれから始まるんだ。──アウラ」
あの人の声。
耳の奥で低く響く。心地いい声。
変わり映えのない闇の中。
そう思っていたけど、今は少しだけ淡白く滲んでいる。
ああ、…まもなく目覚めるんだ。
最近はもうそれすらわかるようになってきていた。
「…どうか…生きて…っ…」
最後の最後に、彼女の声が聞こえた気がした。だけど、それはもう何度も聞いた言葉だったから、もしかしたら幻聴なのかもしれなかった。
──顔が見たいな。
もう一度、二人に会いたい……。
頭の片隅でそう思ったのを最後に、あたしの意識はゆっくりと浮上していくのだった。