第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
「畜生…」
ドフラミンゴがアイツを連れ去った一連の出来事を思い出しては後悔の念が押し寄せる。湧き上がってくるドス黒い感情を落ち着けるために、何度目か分からない溜息を吐いた。
やはり、この島に連れてきたのが間違いだった。少々作戦が遅れてもどこかの島に置いてくるべきだった。
…いや、違うな。
そもそもはヴェルゴだ。あの男がアイツに気付いた時、あの場で殺しておくべきだった。そうすれば、ドフラミンゴに存在を知られることもなかった。
そこまで考えてから、らしくないと思って舌打ちをする。起きてしまったことをうだうだ考えても仕方ねぇ。問題はどうやってアイツを取り戻すか、だ。
まだ遥か遠い王宮を見る。
あそこまで行くのは簡単だが、ドフラミンゴやその部下を相手に立ち回り、無事連れて帰るにはどう見積もってもあと少し回復が必要だった。
──殺すなら、すでに機会はあった。それをしなかったということは、アイツが生きていてこそ価値があるということだ。
ドフラミンゴの目的が何にしろ、気絶してる間は危害を加えないと考える方が妥当だろう。
怒りに身を任せて勝算のない賭けに出るほど短絡的じゃない。焦ると必ずボロが出る。どうせ殺るなら、より確実な手段を取るべきだ。
そこまで分かっていて、それでもなお気が焦るのは──。
「…頼むから大人しくしていろよ」
聞こえるわけもないが、思わず小さく呟く。
不安があるとすればそこだった。さっきのアイツの様子は確かに心臓に悪かったが、今はむしろそのままでいてくれと思わずにはいられない。
ドフラミンゴは、例え家族であろうと反逆者には容赦しない男だ。
目覚めた時、アイツがどういう状態か分からねぇが、正気に戻ってドフラミンゴと対面するのはまずいことだけは分かる。
嘘を吐いて服従する真似でもしてくれりゃいいが、あの真っ直ぐな性格ではまず無理だろう。面と向かって啖呵を切ってドフラミンゴの怒りを買うのが目に見えた。
さすがにアイツが痛めつけられるのを見て冷静でいられる自信は無い。あの汚ねぇ手が触れてるだけで吐き気がするってのに。
…触るんじゃねぇよ。
──コラさんを殺したその手で。