第18章 誘拐
トラ男を見送ろうとした時だった。
──それに気づいたのは。
「それじゃ、またゾウで落ち合いましょう。…って、待ってアウラは!?」
肝心のあの子がいない。
銀色の髪の少女が。
ほんとに、ついさっきまで私のすぐ横にいたはずなのに。
トラ男もハッとしたように周りに視線を向ける。私たちも慌てて船を見回すけど、どこにも彼女の姿は見当たらなかった。
船から落ちて気づかないわけがない。
水音なんてしなかった。
いや、むしろ。
甲板を歩いただけで気付いたはずだった。
こんなに近くにいたんだもの。
空気に溶けて、その場から忽然と姿を消さない限り──。だけど、まさか。
「いた!あそこだ!!」
チョッパーの声で海を振り返る。
──船からそう遠くない鉄橋の上。
その少女は、たった一人で男と向かい合っていた。
「いつの間に!?」
「アウラ!戻ってきて!!」
聞こえていないはずがないのに、見上げるほど身長差のあるその男を見つめたまま、少女は動かない。
ドフラミンゴが、ゆっくりと満足そうな笑みを浮かべるのが見えた。
「──会いたかったぜ」
低く、愉しげな声音だった。
少女はその言葉にぴくりと体を震わせ、男を見つめたまま、息継ぎをするように大きく息を吐いて。
そして、静かに、その目を閉じたのだった。
「どう、して…」
掠れた声が出た。
自分の声じゃないみたいだった。
力が抜けて倒れ込んだ華奢な体を、男の腕が軽々と受け止める。ピンク色の目立つコートの影に隠され、少女の姿は見えなくなった。
なぜ、船の上にいたはずの少女が鉄橋にいるのか。
なぜ、自らドフラミンゴの元に降り立ったのか。
そして、なぜ──。
見間違いかもしれない。
気のせいかもしれない。
だけど、私には。
彼女が目を閉じたとき。
──あの子が、どこか安堵しているように見えたの。
ここ最近、ずっと苦しそうだった彼女が、やっと楽に息ができたように、見えたの。
第18章 『誘拐』 <END>