第18章 誘拐
──昔、マリージョアに1羽の鳥がいた。
その鳥には、男と同じ血が流れているらしい。
噂には聞いていたが、当時はさして興味はなかった。
さっさと死ねばいい。マリージョアを去った天竜人を待ち受ける地獄を知らない奴を家族とは認めない。男にはその確固たる意思があった。
だから、程なくしてそれが死んだと聞いた時も何の感情も抱かなかった。
だがいつからか。
──自分以外に血縁がいなくなった時か。
何故かその鳥の存在を思い出した。
死んだとは聞いていたが、一度思い出すとどんな奴だったのか無性に気になった。
始めは思いつきで集め始めた情報だったが、集める内に男は別の意味でその鳥に興味を持った。死んでしまったのが惜しいと思った。
──これさえあれば、俺は…。
十数年が経ち、死んだはずの鳥が今も生きていると部下が情報をよこした時、男は久しぶりに己の心が沸き立つのを感じた。
求めていたのはこれだと思った。
ずっと探していたのはこれだった、と。
あれさえ手に入れば、この心の渇きが癒えるはずだ。男はゆっくりとその口元に笑みを浮かべる。
すでに布石は打ってある。
その鳥が自ら籠の中にやってくるのをただ待つのみだった。
「……早く来い」
抑えきれない笑みを口元に浮かべ、男は小さく呟いた。