第18章 誘拐
──男はひどく退屈していた。
何に、と言うわけでもない。全てにだ。
自分を取り巻く全てに物足りなさを感じていた。
王国全体を見下ろす位置にある宮城。その城の大広間から男は自分の国を眺める。
城下に見えるは活気あふれる色鮮やかな街並み。
なんの憂いも感じられない。
いつもと変わらぬ平穏な街。
それを見下ろして、男はわずかに口元を歪めた。心にあるのは、侮蔑と嘲り。
思えば、この国を手に入れるのも実に簡単だった。
前国王を反逆者として陥れるのも。
それを制圧して王として君臨するのも。
全て描いた通りの筋書きで事が進んだ。
赤子の手を捻るより簡単だった。
愚かな人々は、ヴェールに隠された根深い闇に気づかず、今日も平和な生活を享受している。
──つまらない。
どいつもこいつも馬鹿ばかりだ。
国王も悪くないと思ったが、手に入れてしまうとすぐに飽きた。そもそも、在るべき座に戻っただけだ。高揚感が長く続くわけもない。
暇つぶしに始めた事業も始めはあれこれと策を練ったが、軌道に乗るどころかここまで好調だと逆にスリルがない。
──いつからだ?いつからこうなった。
"家族"と呼ぶにふさわしい優秀な部下に囲まれた何不自由ない生活。
欲しいものは全て手に入れてきた。
金も、女も、権力も──国さえも。
だが、常に心のどこかに空虚さが漂う。何かが足りないような、どうしようもない心の渇き。
長年それが非常に不快だった。
──だが。
「若様、なんだか楽しそうね」
「…フフフ。とうとうだ。とうとう手に入る」