第14章 ゆりかご
ローは能力を発動して全員を研究所の中まで移動させた。
A棟と書かれた大きな扉の内側。
研究所の正面入り口がある棟だ。
…本当に便利な能力ね、それ。あたしがあんなに苦労して侵入した研究所にこうもあっさり入られては何とも言えない気持ちになる。
だけど、そう言えば、今のあたしならさっきほどの苦労しなくていいかもしれなかった。
相変わらず体は軽いままで、もはや違和感を感じることも無い。心臓の奥の方で轟々と風が渦巻いている気がしたけど、それすら驚くほど体に馴染んでいた。
強いて言うなら、立っているだけなのに入ってくる情報の多さだけがあたしを少し混乱させた。
たぶん、聴覚と嗅覚、そして触覚がものすごく研ぎ澄まされているんだと思う。
僅かな空気の流れ、遠くから風に乗って漂ってくる音や匂いがさまざまなことを教えてくれる。
例えば、今この部屋にわずかに潮風の匂いがすること。多分、この研究所のどこかに海へ通じる道があるんだろう。
それから、何やら外の…ずっと遠いところでドタドタ騒がしい音がして、それがだんだん大きくなってきていること。…何だろう?
こんな風に、いろんな情報が断片的にあたしの耳と鼻に届いてくる。
だけど、その中から必要な情報だけを抜き取って追うなんて器用なことはあたしには難しいみたい。
ものっすごく集中したらもしかしたら出来るのかもしれないけど、こんな状況で試してみようとは思わなかった。
だから、ただただ雑音のように全ての情報が通り抜けていって、結局正確なことは何一つ分からないのだった。このノイズにも早く慣れることができたらいいんだけど。