第14章 ゆりかご
怒りを通り越すと人って逆に冷静になるらしい。
あたしはぼんやりと自分の状況を考える。
あたし、今ローの体になってるってことなのよね。戻ることしか考えてなかったけど、よくよく考えたら、これはちょっとラッキーなことなのかもしれない。
かつてコテンパンに叩きのめされた過去がじわじわと思い起こされてくる。彼はほんと呆れるくらい容赦なかった。
あたし、今ならローに勝てるのかもしれない。もしかして、あの時の報復をするなら今、なんじゃない?
そんでもって、いっそのこと海賊王でも目指してやろうかな…。
パニックも一周回って、現実逃避にシフトチェンジしそうになっていた時だった。
「…はぁ、ま、そんなことできるわけないか。ほんともう嫌だ。どうしてそんな自分勝手なの…ってあれ?」
ブツブツ文句言ってる間に、いきなり体が軽くなったかと思えば。
あたしは目をぱちくりしながら前を見た。
あたしの前には黒い服のローがいて、その隣にはルフィとロビン。見たことのある光景。
思わず視線を落として、自分の手を開いたり閉じたりしてみる。頬に手を当ててみると、もっちり柔らかい肌の感触。それは慣れ親しんだあたし自身の感覚で。
「あれ?あたし、できた…の?」
何かをやった記憶がないんだけど。
そんな感覚もなかったんだけど…?
そう思ったのが分かったように、目の前の男は上体を起こしながら淡々と説明し始める。
「能力者自身の入れ替えは時間が経てば戻る。何度かウチのクルーと実験したが数分が限界だった」
「待ってよ!さっきできなかったらこのままって言ったじゃない!」
「…時間が経つまではって意味だ」
「紛らわしい言い方しないでよ!!」
なんなのよ、もう!
つまり、もともと数分で元に戻るって分かってたんだ!
じゃあそう言ってくれればいいのに!
一人で焦って怒って損した気分よ!!
ブスッと不貞腐れるあたしにお構いなく、ローは当たり前のように自分の鎖を外しながら、ルフィに向かって話しかける。
「ヴェルゴの登場は想定外だったが、麦わら屋。おれたちはこんな所でつまずくわけにゃいかねェんだ」
そして、どこからか大太刀を出現させて、
「作戦は変わらず──今度はしくじるな。反撃に出るぞ」
当然のようにそう言い放ったのだった。