第13章 悪魔の実
「…薄汚れた手で触るんじゃねェ。反吐が出る」
──目の前で、"あたし"が喋った。
そして、"あたし"は首に添えられていた腕を目にも止まらぬ速さで蹴り上げると、ヴェルゴが意表をつかれて手を離した一瞬の隙に彼から距離を取る。
「さっさと海楼石で縛っておかなかったのが仇となったな」
なんて悪い笑みを浮かべて、手の中で小さく風を起こす"あたし"。
そしてその様子を、あたしは呆然と見ていたの。
…完全に外に運び出された、檻の中から。
「は…!?!?」
何!?え!?
何が起きてんの!?
「なんだ?アイツ急に強くなったのか?」
隣でルフィが驚く声が聞こえて、あたしがそれに答えようと振り向いた時、違和感を感じた。
…あたしってこんな服着てたっけ。
それに、こんな脚長かったっけ。
だって、この格好ってまるで。
「…!?これって…むぐっ」
思わず声に出そうとした時、何かがあたしの口から言葉を奪う。空気のような何か。
空気、というより。
多分これは…風だ。
ハッと前を向くと、"あたし"と目があった。
その目が、不機嫌そうに睨んでいて。
そしてさっきまで小さなつむじ風を作って玩んでいた方の手があたしに向けられていて。
あたしはあの目を知っていた。
何も喋るなって言いたげな、棘のある視線。
あたしは呆気にとられて声を出すのも忘れた。
あなたって人は本当に…。
なんて大胆なのよ…。
ゆっくりと閉ざされるシャッターの奥で、銀色の髪を靡かせてヴェルゴと対峙するその"少女"を、あたしはただ見つめることしかできなかったのだった。
第13章 『悪魔の実』 <END>