第13章 悪魔の実
「......はぁっ......っ」
な、なに。今の。
誰の、声?
聞き馴染みのない男性の声。
誰かに話しかけていた。
あたしは白い雪を見つめながら、突然頭に響いてきたその声に混乱状態に陥った。
もう一度よく思い出そうとしても、靄を掴むようにはっきりしない。頭の奥には、ただ、にぶい痛みだけが残っていた。
これも、あたしの過去の記憶なんだろうか。
一瞬そう思ったけど、マリージョアであの人のことを思い出した時のような、苦しくて切ないあの感情は無かった。懐かしさも無かった。
ただ、知らない情報があたしの頭の中に湧いてきた、という感じ。
誰に話しかけていたの…?
なんとなく、小さい子供に話しかけているようだったけど。
この研究所には、以前も誰か閉じ込められていたんだろうか。今ここにいる子供たちと同じように。
それで、その子は、ただこの木を見るために、研究所を抜け出していたんだろうか。
…抜け出して…?
そこで頭の中に突然考えが閃いて、あたしは研究所の方をハッと振り返った。
そうだ…ここにコレがあるということは。
咄嗟に研究所に近寄り、その壁面のちょうど付け根あたり──今は雪に覆われた地面に両手を当て、柔らかいその白を抉り取った。
かじかんだ手から感覚がなくなってゆく。だけどあたしはそんなの気にならないくらい、ある一つの考えに突き動かされて、一心不乱に雪を掘った。
何故だか知らないけど、ここにあたしが今求めているものがあるという確信があった。
そして。
「…あった」
あたしはそれを見つけたのだった。
…そう、ここにはちょうど人一人分入れるくらいの通気口があるはずだったの。こんな風に雪が積もってしまう前はもう少し地面は下だったから。
あの子はこれを通って研究所を抜け出してたの。
ただ、あの木を見るために。