第13章 悪魔の実
「さて、これはどうしよう」
あたしは、ピッタリと閉ざされた研究所の重いシャッターを前に、途方に暮れていた。
何とか中に入りたいのに、これでは蟻1匹侵入できそうにない。
この研究所に縁もゆかりも無いあたしでは、いくら頼んだって、このシャッターを開けてはもらえないことはあまりにも明白だった。
だけど、だからと言って諦めるわけにはいかない。あたしはどんな手段を使っても、この中に入らないといけないんだから。
彼らが連れて行かれた、この研究所の中に。
あの後。
──シーザーがルフィたちを連れ去った後、あたしはしばし呆然としていたけど、それでも何とか正気を取り戻して、一目散に研究所目掛けて駆け出した。
シーザーの攻撃で混乱中の海兵やケンタウロスたちに気づかれない内に。それはもう、自分でも驚くくらいの切り替えの早さと俊敏さだった。
現場は彼らの混乱も頷けるような混沌とした状態だったけど、あたしにはそれを冷静に観察している余裕もなかった。
走り出す間際、赤紫色のブヨブヨした物体が辺りに散らばっているのだけはさすがに視界に入った。
結局あれが何だったのか、それは分からないけれど、さっき聞こえた粘着質な音はこれが原因だということは何となく想像がついた。そして、誰かが悲鳴をあげていた通り、どうやらこれが毒ガスを発しているらしいと言うことも。
だけど、それらもあたしの足を止めるほどの衝撃にはなり得なかった。
あたしの頭を占めているのはただ一つ、シーザーがルフィたちを連れて行ってしまった、というそれだけ。
あの瞬間はどうすることもできなくて固まってしまったけれど、今はもうしっかりシーザーに対する怒りの感情を思い出していた。
そして同時に、敵が目の前にいたのに──彼らが連れ去られるところをすぐそこで見ていたのに、結局何もできなかった自分への悔しさと怒りが、あたしの心をぎゅうぎゅうと締め付けていたのだった。