第10章 再会
──初めは声だった。
「ROOM」
ひどく懐かしい声が、鼓膜を打った。
聞きたくてたまらなかった、声。
あたしが泣きながら森の中を歩いていた時、
どこからか、その声が聞こえて。
そして、泣いているあたしにお構いなしで、
特に探した風でもなく、
あの人は、ある日突然目の前に現れるの。
──文字通り、目の前に、突然。
「タクト」
また声が聞こえて、聞こえたと思った瞬間、あたしが乗っている船が宙に浮いた。
河底ごとぐんぐん上へ持ち上げられる船。
海兵たちの悲鳴が聞こえる。
「うわああああああ!!!」
「やめろおおおおお!!!!」
「その中にはまだトラちゃんがああああ!!」
「やめてくれええええ!!!」
あたしはその声を他人事のように聞きながら、あ、と思った。
あ、落ちる、と。
ぐらり、と大きく傾いた船のへりに、あたしはつかまることもできなくて。
せっかく被ったフードがその瞬間に脱げる。
──どうして。
どうして、あなたはいつも突然なのよ。
銀色の髪が無造作に宙に舞うのが見えた。
──あなた、とんでもない悪役よ、今。
あたしはそのまま、ゆっくりと落下していったのだった。