第10章 再会
「おいコラ。そこは開けるなって言ってんだろ!!」
「ちょっとぐらいいいじゃねェか」
「おい騒ぐな!トラちゃんが起きるだろうが!!」
「そう言うお前が一番うるせェよ」
ガヤガヤと騒ぎ声が聞こえて、あたしは目を開けた。
知らない部屋。
知らないベッド。
そして、ドアの向こう側で蠢くいくつもの大きい影。と、話し声。
………あーーーー。
思い出した。
マリージョアに着いた途端、あたし、気を失ってしまったんだっけ。いろんな感情と記憶がごちゃまぜになって、立っていられなくなってしまって。
そして、────長い、長い夢を見た。
いつものあの人が出てくる夢だった。
だけど、いつもと違って、あたしは起きてからも全部覚えていた。
あの人の声も。話し方も。表情も。全部。
それほどに夢の中は鮮明で、そして、ひたすらに悲しくて、切なかった。
──あれは、あたしの過去の記憶だ。
今はもう確信を持ってそう言える。
まだ分からないことは多いけど、少なくともいつもみたいにあの人に理不尽に腹を立てるようなことはなかった。
あたしの名前も、あのひも飾りも、そして多分、命さえも、くれたのはあの人だったから。それが分かったから。
なぜあの瞬間に思い出したのか分からないけれど。
もしかしたらグランドラインのどこかで、あの人のことが分かる日が来るかもしれない。何となくそんな気がした。
もしそうなら、あたしの旅の目的はもう一つ増えることになりそうだった。
自由になることと、ローに会うことと、そして、あたしの過去を知ること。
別に、今から一つ目的が増えたってどうってことない。
「──仕方ないから、あなたのことも探してあげるよ」
あたしは夢の中のあの人に向けて、生意気にもそんなことを言ってから、ぐぅっと伸びをする。
そして、ゴシゴシと目をこすりながら地面に降り立った。
──さて。
“新世界"ってやつに着いたかな。
新しい旅の始まりだ。
あたしは自ら、そのドアを押し開いたのだった───。