第7章 最悪と最善
タイムリミットはこの船が沈むまで。
あわよくば、あたしたちが逃げた後、海軍にこの船を沈めてもらいたいところ。
一番手前まで近づいて来ていた海賊が刀を構えるのを見て、その1人に標的を定める。
あたしが欲しいのは、あれだ。
分かりやすく振りかぶって斬りかかってくるのを身をかわして避けてから、体を捻った勢いでそのまま相手の首に手刀を落とす。
力が抜けて倒れた海賊の腕から刀をもぎ取ると、試しにぶんと振ってみた。
重い。
だけど振れないことはない。
確認すると、また地面を蹴る。
斬りかかってくる海賊どもを低い姿勢でかわし、がむしゃらに刀を振る。
なかなか致命傷は与えられないけど何とか動きは止まってるから今はそれで十分。
こんなことなら、ローに剣術も習っておけばよかった!!
無我夢中で刀を振りながら、そんなことを考える。
あたしが知ってるローは刀なんか持ってなかったけど、いつからか世経には真っ黒の大太刀を担ぐ姿が載るようになっていた。
たぶん、あの頃も刀は使えたんだろうな。
あたしに教えなかっただけで。
「ほんっと何でもできてむかつく!!」
思わず声に出して渾身の一振りをキメると、返り血が容赦なく飛んできた。
──ひどい。でもこれを何とも思わなくなったあたしが、一番ひどい。
はっ、と薄く笑ってから、顔に飛び散った血を服の袖で拭う。
──殺されるくらいなら、殺してやる。
あたしはもう、雪の上で震えていたあの少女では無かった。
あの少女はあの雪の日に死んでしまって。
代わりに別の、汚くて醜いバケモノが生まれたの。
そしてバケモノは、そのことを悲しむ感情すら、持ち合わせていないの、よ。