第5章 時代
予想外のマリーの反応に力が抜けた。
とりあえず、彼は世の中の情勢についてさほど心が動かないらしい、ということは分かった。
ふと彼の手元に目を移す。
「それ、なに?」
「ああ、これ?」
打って変わって今度は面白そうに、手に持っていたものをあたしにずいっと差し出す。
「エターナルポースって言うんだって」
一瞬、砂時計?と思ったけど、中のガラスはくびれていなくて球形をしている。そしてその球体の中にはコンパスの針のようなものが入っていて、それがゆらゆらと揺れながら、ただ一つの方向を指し示していた。
「ALABASTA…?」
「そう、グランドラインにある島の一つみたい。これはその島を指し示しているらしいよ」
面白そうにそのエターナルポースとやらを振ってみせる。信じられないことだけど、マリーにとっては世界を驚かせる重大ニュースより、手の中に収まるそれの方がよっぽど興味深いものらしい。
そんなもの、何に使うの。と言いたくなったけど、マリーが気に入っているようなのでぐっと堪える。
「どこでもらったの?」
「ん?違うよ、買ったんだ。さっきのお金で」
「さっきのって、賭け事で勝ったお金!?まさか全部!?」
お金って持ち運ぶのが邪魔になるでしょ?と何でもないことのように宣うマリーに、呆れを通り越して感心してしまう。
あんなにお金を持っていたのに今持っているのはこのよく分からないコンパス一つのみ。
本当に、男の子ってわかんない。
いや、と言うより、マリーがわかんない。
言動といい、金銭感覚といい、一般人には到底理解できない。
もしかして、マリーって実はものすごくお金持ち??
陶器のようにきめ細かい白い肌や、透けるようにきらきらと輝く金髪からしても、貴公子然としている。どこかの国の王子様と言われた方がしっくりくる気もした。
あたしは、このマリーと名付けた青年のことがますます分からなくなるのだった。