第20章 壊れ始める恐怖
【墓地】
「(ここは…墓場?なんでこんなところに…?)」
真夜中、雲で翳る月明かりに照らされた墓地は薄気味悪い。たくさん並べられた墓碑の下から何か出てきそうな雰囲気だ。
「ライトくん、こんなところになんの用…」
「っ…………」
隣を見ればライトくんは目から涙を流し、静かに泣いていた。そんな彼を見るのは初めてで、私は少し驚いてしまう。
「誰か…知ってる人でも眠ってるの?この場所に」
ライトくんが泣くほどの人…なんだよね。まさか“あの人”じゃないかと考えたが、流石にそれはないだろう。
「(だって“あの人”って…まだどこかで、生きてるんでしょ?)」
「ボクらの───母がね。」
「え?お母さん?」
「んふ。お花ちゃんは知らないんだっけ。ボクら兄弟には三人の母がいるのさ」
「三人の…お母さん…」
「シュウとレイジの母。そして、ボクら三つ子の母、そしてスバルの母の合計三人ね」
「…そうだったんだ」
夢で会った彼女は“全員の母”じゃなくて、三つ子の母だった。それにしても…ライトくん達のお母さんが死んでるってことは…じゃあ、夢で会った彼女は一体…?
「ここに眠ってるのはライトくんのお母さん…」
「別に“母”に対して特別な感情はひとつもないんだけどね。それに、ここに彼女が眠っているわけじゃない」
「じゃあ、何で?」
「ここに来て、こうして感傷に浸る理由かい?そうだねえ、強いて言うなら…確認、かな」
「確認…?」
「もういないってことを、確認するの。それで、少し楽になるから」
「そういう、ものなの?」
「ホッとするよ。二度と復活して欲しくないからね」
「でもヴァンパイアなんだよね?だったらそんなに簡単に死なないんじゃ…」
「──死んだよ。」
「……そう。」
自分に言い聞かせるみたいにライトくんはキッパリと言い切った。
「どうしたの?ボクの涙、珍しい?」
「珍しいよ。ライトくんでも…泣くんだな、って」
「んふ。そうだね」
そう言って、ライトくんは私を抱きしめる。
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