第17章 ハジメテの痛み
「怯えちゃって可愛いね。キミの泣き顔、すっごく興奮するよ」
「もう…許して…」
「好きだよ」
「私は…好きじゃない、よ…」
「それって、愛情の裏返し?お花ちゃんは素直じゃないもんね。本当はボクのことが大好きで仕方ないんだよね?」
「ち、がぅ…こういうことするライトくんなんて…」
「嫌い──って言ったら、酷くするよ」
「っ…………」
低くなった声のトーンにビクッと体を跳ねさせる。
「ねぇボクの愛おしいお花ちゃん。キミのハジメテ、ボクにちょうだい?」
ライトくんの叔父さんという人が訪れてからの彼の様子は、普通ではなかった。あまりにも突然のことだらけで、心が追いつかない。
さっきの人は、『教会から差し出された生贄で、あの方が特別に選んだ』───そう言っていた。前にユイちゃんから聞いたことがある。きっと彼女のことを言っていたのだろう。
じゃあ、私は────?
『お前が傍に置いているあの女、気をつけた方がいい』
『あの人が嫌っている匂いを持っている』
まだ全貌は見えないが、どうやら彼らの叔父は、私の正体に気付いているような感じだった。
どうして天使だと知っているのか。
あの人が嫌っている匂いとは何か。
聞きたくてもそれは叶わない。あの人を見た時、心臓が嫌な音を立てた。関わるなと頭の中で警告音が鳴り響いた。
「(怖くて…涙が止まらない。)」
私はライトくんに全てを暴かれる。こんなに怖くて、乱暴な彼は知らない。やめてと泣き叫んでも、それを無視してライトくんは私を押さえ付ける。
「(耳も、頭も、体中…痛い。魔族と…彼と、繋がりを持ってしまう。)」
涙で視界がぼやけ、もう、抵抗する力すら、残っていなかった。ただ身体中にキスを送るライトくんが…一度も私を見なかったことが…すごく、悲しかった。
「(フィナンシェ…キッチンに置いたままだ。もう冷めてるだろうな。せっかく…作ったのに。)」
どうでもいいことを考え、私は虚ろな目で天井を見ながら、それが終わるのをただじっと耐えた───……
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