第14章 愛しの"アノ人"
【キッチン】
「(はぁ…ここにいるとホント普通の生活が奪われる。ライトくん達に私の正体を知られたらまずいし…絶対に上手くやり過ごさないと。)」
この屋敷にいる限り、外出は難しい。学校にいても必ず三つ子の誰かと遭遇する。他の男子と喋ってるだけで不機嫌になるし、私を兄弟達以外の人間と関わらせない。
「(これじゃあ呪いを解く相手すら探せない。…私を愛してくれる人が、私の呪いを解いてくれる『特別な者』。そんな人本当にいるのかな…。)」
そもそも、愛がどんなカタチなのかすら分からないのに。運命の相手と巡り合うことなんて…。
「(でも…私のことを本気で愛してくれる人がいてくれたら、嬉しい。その人から与えられる愛を知ってみたい。)」
ぐつぐつと煮立つシチューをお玉でゆっくりとかき混ぜながら、そんなことを思う。
「(シチューの良い匂い。)」
一応キッチンを使う前にレイジさんに許可を貰いに行った。案の定、良い顔はされなかった。
"くれぐれも火の扱いには気をつけるように"
"あと食器は絶対に割らないで下さい"
"それから───……"
注意深く言われた為、それらを守ってシチュー作りを始めた。
「(結局新しい携帯、買いに行く時間すらなかったな…)」
「───お花ちゃん?」
「っ………!?」
「なぁにしてるの?」
突然背後からぎゅっと抱き着かれ、驚いて顔だけを後ろに向ける。
「ラ、ライトくん…!」
「ふふふ、こーんにちは♪」
「料理中にいきなり抱き着かないで!」
「料理中?何作ってたの?」
ライトくんが私を抱きしめたまま、鍋の中にあるシチューを見る。
「此処に入って来る時、なんかいい匂いすると思ったら、シチューだったんだ」
「そうだよ」
「もしかしてボクの為に作ってくれた?」
「そんなわけないでしょ。いいから早く離れて!」
身を捩って振り払うと、意外にもライトくんは離してくれた。火事になるといけないので火は消しておく。
「何でここにいるの?」
「だってボクの可愛いお花ちゃんがひとりなんだよ?放っておけるわけ、ないでしょ。って…あー!!」
「っ!!いきなり叫んだりして何?」
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