【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第4章 アヤメの花言葉
人通りの多い夜道での突然の告白に、ただでさえ目立つ容貌の2人が話込めば、当然の結果として周囲の目を惹いてしまう。
頭が真っ白になったが、我に返ると顔から湯気がでそうなぐらい、急に恥ずかしさが込み上げた。
「さあ、帰ろう!千寿郎が待っている!腹も減ったな!」
その手を握ったまま手を引いて、ずんずん歩き出した杏寿郎に、慌てて歩みを合わせる。斜め後ろから見る彼の耳が少しだけ赤らんでいたのがわかった。
(彼も本気なんだ…)
そう思う。いや、いつもそうだ。冗談を言う人ではないから、それは知っている。でも今日のはいつもと違う決意の様なものを感じた。
(私は彼を愛している。でも私は相応しくない、足りない、何もかも)
穢れた血だと、自分を卑下する事もあった。その癖強くもなれない自分を呪いたくなる事もあった。出生だって平凡だ。何もかも、杏寿郎の傍にいるには相応しくないのはわかっていた。
それでも気にしないという彼の立ち振る舞いを見る度に、それに甘えてしまいそうになる。
(私は………どうしたい??)
空を見上げると月が出ていた。答えをくれる訳ではないのに、この問を誰かに投げかけたくて、月を仰いだ。買ったばかりの髪飾りが、月光に照らされ美しく輝いていたが、それを眺めるほどの余裕は、どちらにもなかった。
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「槇寿郎さま?入りますよ」
そう襖の向こうから声をかける。返事がないので、蛍が縁に手を掛けようと伸ばしたところで、ガラッと勢いよく襖が開き、槇寿郎が立っていた。
「……ああ、丁度良い」
その言葉に蛍も彼の寝室へと入る。奥の扉が全部開かれ、美しい庭園と月がまるで1枚の絵の様に収まっている。
「月が綺麗ですね。はい。今日は湯を持ちましたよ」
蛍が持ってきたお盆には、お湯と焼酎、2つのコップ、そして芋けんぴがのっていた。
そのコップに、お湯と焼酎をそれぞれ注ぎ、お湯割りを作る。
部屋の奥、縁側に槇寿郎が腰を下ろすと、彼女もまたその隣に座った。
「…どうぞ。ふふ、私もいただきますね」
槇寿郎のそれよりは気持ち薄く割ったお湯割りを手に取る。