【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第3章 鬼の血の子と稀血の柱 ※
中途半端な気持ちがいちばん杏寿郎を傷つけてしまう。
(だから私は覚悟を決めたのに……この体たらく!嫌になるわね)
台所に向かいながら独り言ちる。
ギリっとかみしめた唇の端が切れて血が滲んだ。
最終選別のあの日から、自分の身の丈はわかっていた。どれだけ彼が好意を向けてくれたとしても、自分には相応しくない。ただでさえ良家の血筋で、杏寿郎は更に実力も抜きんでている。本来ならば一緒にいる事すら許されないはずだ。
彼と一緒にいない道を選ぶ事こそが、蛍が出来る唯一の事だと信じている。空っぽの私が傍にいて、好意を向けてもらっている事の方が罪深いと感じていた。
何度も何度もそうやって胸の中で反芻し、台所に着いた頃にはいつもの平常心を取り戻す。
そこには先に来ていた千寿郎が下準備を進めていて、こちらに気付くとぱあっと明るい笑みを浮かべてきたので、彼女もまた笑顔で応えるのだった。
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蛍が去ったあと、自分の部屋へと戻り、着替えを済ます。
湯浴みが出来ないのがいささか気持ち悪かったが、仕方ない。清潔な衣服に着替えるだけでも気分が違った。
体のそこかしこが痛む。だがそれが気にならないぐらいに、体が熱を帯びていた。
もう少しで触れそうだった唇を想像しただけで、体の芯が疼いて治まらない。
蛍がどうして自分を受け入れてくれないのかは十分に理解しているつもりだ。彼女は絶対に口にはしないが、その感情は見て取れた。故に時間をかけなければならない事も覚悟はしている。
しかし、健康な16歳の肉体に宿る情欲を抑えるのは並大抵の精神力では叶わない。頭でわかっていても、体は常に正直に反応してしまうからだ。
既に己が自身は収まりがきかなくなって、パンパンになっている。何度、彼女を抱きたいと、押し倒したいと思っただろう?
ただでさえ、任務のあとは血が巡り、気持ちが昂ってしまう。感情も、欲情も、はちきれんばかりだ。
これに収拾をつける方法は簡単だった。
(大丈夫。俺はまだなすべきことがある。何もかも至らないのは己が未熟だからだ)
もうすっかり慣れてしまったが、自分で自分を慰める夜はまだまだ続きそうだった。
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