【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第2章 初めての死
朝の光が小さな宿の部屋に差し込み、鳥の囀りが聞こえてくる。
朝がいつも弱い蛍でも、今日は珍しく起きてすぐに目が冴えた。
浴衣を脱ぎ、下着を付け、普段は身に付けないサラシを巻く。不思議と気分も一緒に引き締まる気がした。
昨夜、寝る前に用意していた服に袖を通し、身なりを整えた。最後に、腰に日輪刀を刺す。
着物と袴は自分で用意したものだが、真っ白な羽織と刀は産屋敷耀哉にもらったものだった。
羽織に手を通すと、冬の季節に似つかわしくない夏の太陽を浴びたような、お日様の匂いがふわっと香った。
(この香り…)
今日という日にふと思い出す。太陽の様なあの家族と屋敷の匂いだ。
(耀哉さまは、何も言わなかった)
ただ、由緒ある家の羽織で、蛍の為に用意しと聞いていた。すっかり産屋敷家が用意してくれたのだと思っていた。
(槇寿郎さま……)
その顔を思い出す。最後に会ったあの日からもう2年、姿を見てはいなかった。
昨年、瑠火の訃報を聞いた時は、もう葬式もひと通り終わった後だった。
瑠火にもらったピアスを耳に刺す。これをもらった時はまさかそれが最後になると思わなかった。あの時に戻って直接に礼を言うべきだったと何度後悔したかはわからない。
文字通り、あとの祭りだ。
ほんのり、ピアスをした耳が熱くなる気がした。
(もしかして、この刀も…?)
鞘から引き抜いて、正面に掲げて見る。日輪刀ではあるが、呼吸の使えない蛍では色が変わることもなく、冷たく輝く鉄色のままだ。
(大丈夫、馴染んでる。私は……やれる!)
軽く振って、鞘に戻すと済んだ金属の音が薄く響いた。
耀哉の話では、この日輪刀は陽光山の中で取れる鉱石の中でも最も古くから存在する希少な石で、太陽光を何倍も浴びているとの事だった。
これがあれば呼吸が使えない蛍でも鬼を斬ることができるだろうと、耀哉がくれたのだ。それは蛍を姉の様に慕う彼の思いやりで、それを蛍も十二分に感じることができた。
(この刀にかけて、私は負けるわけにはいかない)
煉獄家を出て産屋敷邸に戻ってからは呼吸のことは忘れ、ひたすらに体術、剣術を磨いてきた。
時折、鬼殺隊最高位である柱に稽古をつけてもらったりもした。
だが、その中に槇寿郎の姿を見ることはなかった。