第11章 ※炎炎 【煉獄杏寿郎】 1
あやとは前世でまさに恋焦がれる恋愛をしていた。任務で赴いた先で出会い、すぐに意気投合した。
強く気高く、優しく賢い。そしてよく笑う美しい子だった。まだお互い幼かったが、気が付いた時にはもうどうにもならない位好きになってしまっていた。人を愛するということは彼女から教わった。愛おしさで涙が溢れた感覚を今でも覚えている。
藤の花の家で出会うと、貪るように肌を重ねた。体の相性が良というのだろうか・・とにかく毎回幸福感で一杯になった。もう何も出なくなるくらい一晩で何度も何度も体を求め合ったことも一度ではなかった。
今生であれ程までの幸福感が味わえた事は無いし、今は行為自体への欲求がさほど持てない。
前世ではいつでも死と隣り合わせという状況だったのもお互いを燃え上がらせる要因の一つだったのかもしれないが。
・・そして、俺が任務中に命を落としたことで2人の関係は突然終わった。あやはひどく落ち込み、その半年後の決戦で生き急ぐ様に人を庇って命を落としたと聞いた。
あやと偶然会ってから約一か月、毎日あやの事を思い出してしまう自分がいた。一緒に笑ったこと、一緒に泣いたこと、一緒に鍛錬をしたこと、初めて口づけをしたこと。初めて肌を重ねた日の事。結婚の約束をしたこと。そしてその時のあやの恥ずかしそうな嬉しそうな顔。
・・・俺が死ぬ直前に、彼女にもっと愛していると伝えればよかったと後悔した事。
薄れゆく意識の中で、どうか彼女が俺の死を乗り越えてくれます様にと祈った事。
妻を抱きながら、妻の顔にあやの顔を重ねてしまっていてはっとした。あやの事をもう思い出したり、考えたりするのを辞めようと。
また妻を愛する努力を始めた。
もうあの電車には乗らないし、これまでと同じ様にあやとは違う人生を歩む事になるだろうから。
でも、『子どもが欲しい』という妻の望みには『もう少し2人を楽しみたい』と返してしまった。
急に子供を望みだした妻は何かを察したのかもしれない。『そうだね。』と返してきた寿美は少し寂しそうだった。気づかない振りをしたけど。