第9章 交淡如水 【冨岡義勇】 1
義勇の担当1カ月目の主な出来事
あやは屋敷の前でしばし考え込んでいた。手には怪我の治療に使う道具と昼食。
(入りにくい。)
この屋敷の主 水柱である冨岡義勇は、半刻ほど前に任務が終わり、大怪我をして蝶屋敷に来たが、怪我人が多くいたため勝手に帰ってしまったのだ。
冨岡がいないことを知ったしのぶが、あやを呼び、
「冨岡さんの傷を見て、手当てをしてきてくださいね。」
と、すごく怒っている時の顔で言うので、仕方なく来たのだ。
あやは元々は伊黒の担当で、気難しい伊黒に珍しく嫌われなかった隊士として、一年以上に渡り簡単な治療や、ケガで動けない時に食事の配達や調理などの世話も行っていた。
伊黒の所はとても気に入っていたのだが、冨岡の担当が彼は顔は穏やかそうで良いが無口であること、感情のつかめない無表情な事、喋っても言葉が足らず、意味不明なことが多いということで替わって欲しいと言い出した。
あやは伊黒とうまくやれる位だし、同じ水の呼吸という適当な理由で配置換えになり、ここにあてがわれた。
実際はあやには伝えられなかったが、その理由だけでなかった。義勇の担当の前任者は男だった。義勇は男の隊士や、若い女の子とは悉く合わなかった。本人に悪気は無いのだろうが、余計な一言が多いのだ。彼には面倒見が良く、年の近い女でないと合わないとしのぶは踏んでいた。尤も、若い男が担当で上手くやれるのは煉獄か悲鳴嶼位だが。